有機リン中毒
概要
有機リン系またはカーバメート系農薬によるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤中毒。SLUDGE/DUMBELS症候群を引き起こす。2種類の解毒剤:アトロピン(ムスカリン症状)+プラリドキシム/2-PAM(OP特異的—「エージング」前にAChEを再活性化;カーバメートには無効)。気管支痙攣+呼吸筋麻痺による呼吸不全が主要死因。治療開始までの時間が生存を決定する。
主な症状
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臨床徴候
犬における有機リン中毒の臨床徴候は毒性物質の種類と曝露量により急性〜慢性まで多様。消化器症状(嘔吐・下痢・流涎・腹痛)が最も一般的な初期所見。神経毒では振戦・痙攣・運動失調・昏睡。肝毒では黄疸・凝固障害・肝性脳症。腎毒では乏尿・尿毒症徴候。血液毒では貧血・出血傾向・メトヘモグロビン血症。心血管毒では不整脈・低血圧・ショック。急性曝露では症状発現が迅速で、早期除染と支持療法が予後を決定する。
原因
農業用有機リン系農薬:マラチオン・クロルピリホス・ジアジノン・ジクロルボス。カーバメート系農薬:カルバリル・メソミル・カルボフラン。暴露経路:処理済み植物/土壌の摂取・濃縮液の経皮吸収・散布時の吸入。有機リン/カーバメート含有ノミ・マダニ駆除製品(現在はより安全な製品に概ね置き換え済み)。ピレスロイド/除虫菊製品は有機リン化合物ではない(異なる機序)。
病態生理
有機リン→AChEの活性部位との共有結合→不可逆的阻害(「エージング」前に治療しなければ恒久的共有結合)→全コリン作動性シナプスでのACh蓄積→(1)ムスカリン作用(SLUDGE):流涎・流涙・排尿・排便・GI症状・嘔吐+徐脈・縮瞳・気管支痙攣・気管支分泌亢進;(2)ニコチン作用:筋線維束攣縮→筋力低下→弛緩性麻痺・頻脈;(3)CNS:不安・けいれん・昏睡。気管支痙攣+気管支分泌亢進→呼吸不全=主要死因。カーバメート:可逆的AChE阻害(数時間で自然再活性化)→より短い毒性期間・プラリドキシム不要。
診断
有機リン中毒の診断は曝露歴とムスカリン様・ニコチン様症状から臨床的に行う。ムスカリン様:流涎、流涙、排尿、下痢、嘔吐、縮瞳、気管支分泌亢進(SLUDGE)。ニコチン様:筋束攣縮、筋力低下、麻痺。中枢神経:痙攣、昏迷。血中・血漿コリンエステラーゼ(ChE)活性低下(正常の50%以下で有意、25%以下で重症)。全血ChEの方がより正確。胃内容物・嘔吐物の毒物分析。鑑別:カーバメート中毒(ChE回復が早い)、有機塩素系中毒、ストリキニーネ。治療:アトロピン(ムスカリン拮抗)+プラリドキシム(ChE再活性化、24h以内)。
治療
除染:皮膚暴露の場合—汚染された被毛をシャンプーで徹底洗浄(処置者は保護手袋着用—人への経皮吸収リスク)。GI—摂取後30〜60分以内かつ意識明瞭:アポモルヒネ0.03 mg/kg IV→活性炭1〜3 g/kg PO×1〜2回。解毒剤1—アトロピン(ムスカリン作用のみ;ニコチン作用/CNSへの効果なし):0.2〜0.5 mg/kg IV(「分泌物の乾燥」を目標に滴定—心拍数や瞳孔散大を目標にしない)。大量が必要—必要に応じてq5〜10分で繰り返し;目標:分泌物の乾燥・聴診でラ音消失。用量の25%をIV(5〜10分かけて)、75%をIM。「アトロピン過量」徴候(口腔乾燥・散瞳・頻脈)を恐れない—過少投与の方が危険。解毒剤2—プラリドキシム(2-PAM、OPにのみ有効、カーバメートには無効):20〜50 mg/kg IV(生食希釈、15〜30分かけて)→10〜20 mg/kg 4〜6時間毎×24〜48h;「エージング」(不可逆的リン酸化)前に暴露後数時間以内に投与しなければならない。呼吸サポート:O2・気管支拡張薬(テルブタリン0.01 mg/kg SC)・呼吸不全には挿管+機械換気。グリコピロレート0.01〜0.02 mg/kg IVはアトロピンの代替(CNS浸透が少ない)。けいれん:ジアゼパム0.5〜1 mg/kg IV。最低24〜48時間入院。
予防
全農薬を施錠されたペットアクセス不能な場所に保管。散布直後の区域へのアクセス制限(散布後少なくとも24〜48時間待機)。よりペット安全な農薬の代替選択(ネオニコチノイド・IGR・適切な希釈のピレスロイド)。全農薬ラベルの立入制限期間を確認。散布時は保護具を着用—個人とペット双方の安全のために。
予後
カーバメート中毒:アトロピン単独で良好(AChE阻害は可逆的—12〜24時間で回復)。有機リン(軽度〜中等度、早期にアトロピン+2-PAM治療):良好。重篤なOP(呼吸不全・重積状態・「エージング」発生済み):慎重〜不良—エージング発生後はプラリドキシムでも不完全なAChE回復。急性期を生存した犬:24〜96時間後に「中間症候群」(近位肢筋力低下・呼吸障害—第2波)の可能性。RBC AChEの完全回復には2〜4週間(赤血球寿命)かかる。
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