水中毒(急性希釈性低ナトリウム血症)
概要
大量の自由水(低張・低溶質の水)を急速に摂取し、腎の排泄能を超えることで生じる急性・致死的となりうる希釈性低ナトリウム血症。遊泳・ドックダイビング中に水を繰り返し咥える/飲む、ホース・スプリンクラー・高圧洗浄機で遊ぶ、水中のおもちゃを咥えようとする、激しい運動後の過飲、真水の過剰投与などで典型的に起こる。血清ナトリウムの低下により水が細胞内へ移動し脳浮腫を生じる。小型犬や水遊び好きの回収犬種でリスクが高く、発症は数分〜数時間で痙攣・昏睡・死に進行しうる。
主な症状
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原因
自由水の過剰・急速な摂取:遊泳・ドックダイビング中に水を繰り返し咥える/飲む、ホース・スプリンクラー・高圧洗浄機で遊ぶ、水中のおもちゃを咥えようとする、激しい運動後の過飲。医原性・その他:真水や低張輸液の過剰投与、過度の水負荷、心因性多飲。素因:小型(必要な絶対水量が少ない)、水好きの使役・回収犬種(ラブラドール等のレトリーバー、ボーダー・コリー)、暑熱下での長時間の水遊び。
病態生理
急速な自由水負荷が血漿浸透圧を腎の排泄能(自由水クリアランスには上限がある)を超えて低下させる。水は浸透圧勾配に従って細胞膜を自由に通過するため、細胞外ナトリウムの低下により水が細胞内へ移動し、脳では細胞毒性脳浮腫と頭蓋内圧亢進を生じる。絶対値よりもナトリウム低下の『速度』が重症度を規定し、急性に約120 mEq/L未満へ低下すると脳症を来しやすい一方、緩徐に達した同じ値は耐容されうる。希釈により他の電解質も見かけ上低下し、急激な容量負荷は肺水腫を誘発しうる(DiBartola, Fluid, Electrolyte and Acid-Base Disorders in Small Animal Practice に準拠)。
治療
緊急——危険は『脳浮腫』と『過剰に速い補正』の両方にある。(1)自由水の摂取を完全に中止し、気道確保と酸素投与。(2)血清ナトリウム・浸透圧で確定する。補正速度が最重要の安全限界で、浸透圧性脱髄症候群を避けるため血清Naの上昇は約0.5 mEq/L/時以下、24時間で8〜10 mEq/L以下に留める。(3)重症(痙攣・昏睡・急速なNa低下):高張(3%)食塩水3〜5 mL/kgを15〜20分かけて慎重にIV投与し再検——痙攣を止める程度に留め、正常化を目指さない。(4)脳浮腫:マンニトール0.5〜1 g/kgを15〜20分かけてIV(±高張食塩水)、頭部を約30°挙上。(5)等〜過容量例では自由水排泄を促進:フロセミド1〜2 mg/kg IV。(6)痙攣管理:ジアゼパム0.5 mg/kg IV またはレベチラセタム20〜60 mg/kg IV。(7)輸液:軽症・等容量例は飲水制限のみで軽快することがある;低張輸液は避け0.9%食塩水を用い、Naを2〜4時間毎に再検。(8)意識状態・Na推移・尿量・肺水腫の有無をモニタリングする。
予防
連続した水中回収・ドックダイビングを制限し、頻回に休憩を入れて疲れる前に切り上げる。水を咥え込みやすいおもちゃではなく飛沫の少ない平たい回収用おもちゃを使い、高圧のホース/スプリンクラー遊びや水中の咥え取り遊びを避ける。小型犬や水好きの犬は特に注意し、激しい運動直後は自由飲水ではなく量を決めて与える。
予後
早期に発見された軽症例は飲水制限とモニタリングで完全回復することが多い。痙攣・昏睡・高度脳浮腫を伴う重症例は予後注意〜不良で、ナトリウムの過剰に速い補正自体が不可逆的傷害(浸透圧性脱髄)を起こしうる。早期認識と管理された緩徐な補正が転帰を左右する。
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