胎盤遺残(後産停滞)
概要
最後の子犬娩出後4-6時間以内に1個以上の胎盤(胎膜)が排出されない状態。犬では各胎盤は通常、子犬娩出直後に分離排出されるため、6-12時間以上の遺残は子宮炎・敗血症・DICへと進展しうる。胎盤数は娩出子犬数と一致することが原則であり、排出数の確認が必須。
主な症状
原因
一次子宮無力症(長時間分娩後の疲労、低カルシウム血症)、難産、肥満、高齢(>6歳)、小型犬・トイ種(胎盤遺残率が高い)、大産仔数(>6-8頭)、帝王切開術(術中操作・胎盤不完全摘出)、分娩前から存在する生殖器感染、外因性ホルモン投与、子宮頸管の早期閉鎖。Brucella canis・CHV-1・慢性子宮内膜炎は胎盤癒着を誘発しうる。
病態生理
犬の正常胎盤排出:帯状胎盤は胎子娩出後数分以内に辺縁血腫部で分離→子宮筋収縮で排出される。遺残が起こる病態:(1)最終胎子娩出後の一次子宮無力症の持続、(2)癒着または異常付着による胎盤分離不全、(3)閉鎖した子宮頸管が分離済み胎盤を閉じ込める、(4)難産・疲労による子宮筋収縮力低下。病理学的帰結:遺残組織が上行性細菌感染(大腸菌・Streptococcus・Staphylococcus)の基質となる→細菌内毒素が全身性炎症反応を惹起→子宮内容の壊死が循環に流入→24-72時間以内に化膿性子宮炎・エンドトキシンショック・DICへ進展。
治療
診断確定:(1)胎盤数確認—子犬数と一致すべき;(2)娩出後6時間以上経過時は腹部超音波で遺残組織を検索(子宮角内の高エコー性腫瘤+無エコーハロー);(3)CBC・生化学で敗血症評価;(4)膣細胞診で菌量と炎症細胞を確認。内科治療(産後6-12時間以内の早期・合併症なし):(1)オキシトシン0.5-2 IU/kg IM(最大20 IU、30-60分間隔で2-3回反復可、無反応なら中止—子宮破裂リスク);(2)グルコン酸カルシウム10% 0.5-1.5 mL/kgをIV緩徐投与(15-20分、低カルシウム血症関連の子宮無力症を補正、ECGモニタリング);(3)オキシトシン無効時はプロスタグランジンF2α(ジノプロスト)25-50 μg/kg SC q2-4h ×1-3日(子宮収縮+部分的子宮頸管拡張、悪心・喘鳴の副作用あり)。外科介入(内科治療24時間以上無効または全身症状出現):卵巣子宮全摘術が決定的(今後の繁殖予定なしなら推奨);子宮切開術単独は繁殖価値の高い雌のみ(再発リスク高)。抗菌薬併用:診断確定時から広域—アモキシシリン・クラブラン酸12.5 mg/kg PO q12hまたはセファレキシン22 mg/kg PO q8-12h;全身症状あればアンピシリン22 mg/kg IV q6h+エンロフロキサシン5 mg/kg IV q24h。支持療法:IV輸液(LRS 2-4 mL/kg/h)、制吐薬(マロピタント1 mg/kg SC q24h)、体温q6h監視、48時間後の子宮細胞診で反応評価。
予防
各娩出時の胎盤数の正確な計数(分娩記録に全胎盤を記録、生存+死産仔数と一致を確認)。高リスク母犬(小型・トイ種、難産既往、帝王切開)では産後4-6時間の超音波検査。分娩中の母犬のカルシウム・エネルギー状態維持(繁殖用完全食の少量給餌、水分確保)。子宮無力症が確認されない状況での予防的オキシトシンの常用は避ける(子宮破裂リスク)。帝王切開時:術中に各子宮部位の胎盤除去を用手確認、滅菌生食で子宮内を洗浄、閉腹時にオキシトシン5 IU IM投与で子宮退縮を促進。胎盤遺残既往のある母犬では交配前にBrucella canis・慢性子宮内膜炎のスクリーニング。
予後
合併症のない胎盤遺残を早期内科治療(6-24時間以内)で管理した場合:回復率80-95%、次回発情周期は正常復帰。発見遅延(>48時間)で子宮炎・敗血症合併:積極的治療でも死亡率20-40%、生存例でも次期繁殖能低下の可能性。外科的OVH:根治的だが繁殖引退を意味する;術後回復率90-95%。再発リスク:保存的治療のみの場合、次産次で30-50%再発;交配前の子宮内膜炎スクリーニングで再発率は低下。短頭種・トイ種で反復する場合は離乳後の選択的OVHを強く推奨。
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