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犬 (Dog) 感染症 緊急

新生子犬低体温症

Neonatal Hypothermia (Puppy) / 新生子犬低体温症

概要

生後4週齢以下の子犬における体温低下(直腸温<34.5℃/94°F)。新生子は最初の2-3週間は有効な体温調節ができない(震え反射は約6日齢まで未発達、褐色脂肪が少ない、体表面積/体重比が大きい、出生時に体表が濡れている)。低体温は新生子死亡の主要な寄与因子で、フェーディングパピーの致死的悪循環の核となる(低体温→吸乳不全→低血糖→腸管麻痺→感染→さらなる低体温)。

主な症状

食欲不振 虚脱・失神 隠れる 無気力 体重減少

原因

環境温不足(第1週で分娩箱<29℃)、出生後の乾燥不足で濡れたままの子犬、難産・帝王切開後の長時間回復(術衣場の冷たい環境)、母犬からの分離(孤児、育児拒否、大産仔で弱い仔が押し出される)、断熱不足(不適切な床材、隙間風)、活動性低下を伴う疾患(敗血症、先天奇形、低血糖との双方向悪循環)、低出生体重(熱容量不足)、入院新生子への冷たいIV輸液、早産。

病態生理

犬新生子低体温の段階:正常体温=36.7-37.8℃(第1週直腸温)、37.8-38.5℃(2-3週齢)、38.3-38.9℃(4週齢以降)。軽度(34.5-36.0℃/94-97°F):吸乳反射弱化、活動性低下、消化管運動低下だが加温で可逆。中等度(32.0-34.5℃/90-94°F):吸乳反射消失、消化管麻痺完全(ミルク消化不能→強制給餌で誤嚥リスク)、徐脈、呼吸数低下、末梢血管収縮。重度(<32.0℃/90°F):循環虚脱、昏睡、重度凝固障害、積極的介入なしでは死亡率ほぼ100%。病態生理学的帰結:(1)寒冷誘発性腸管麻痺がミルク消化吸収を妨げる、(2)低体温で褐色脂肪熱産生が活性化しグルコース貯蔵を枯渇→低血糖、(3)末梢シャントと肺灌流低下による低酸素、(4)寒冷ストレスによる免疫抑制が敗血症を促進、(5)凝固酵素機能障害→出血傾向。

治療

原則:末梢血管拡張誘発性ショックを避けるため緩徐に加温。低体温子犬への給餌は禁忌(麻痺性イレウス→胃内ミルク貯留→誤嚥)。軽度低体温(34.5-36.0℃):(1)母犬との皮膚接触(最も生理的)、または温タオル+低温ヒーティングパッド(布で覆い32-35℃)で60-90分かけて加温。(2)15-30分毎に体温確認。(3)正常体温になれば授乳または加温(37℃)した子犬用ミルク代替品4-6 mL/100gを給与。中等度低体温(32.0-34.5℃):(1)外部加温:保育器(32-34℃)、温水ボトル(タオルで包み38-40℃、皮膚直接接触は熱傷リスクのため避ける)、30 cm離した熱ランプ。目標は1時間あたり1-2℃の加温(急速加温は血管拡張性ショックを誘発)。(2)加温したIV輸液(LRSを37-38℃に加温)1 mL/30g SC q1hまたは緩徐IV(生後72時間以内なら臍帯静脈、それ以降は頸静脈または骨内)。(3)体温>35℃で腸音聴取できれば5%ブドウ糖経口1 mL/30g q1h、>36℃で子犬用ミルク代替品に移行。(4)BGをq1hでチェック—併発低血糖は多い、慎重に補正(新生子低血糖の項参照)。重度低体温(<32℃):(1)循環呼吸サポート—気道確保、マスク酸素。(2)能動的中心加温:加温IV輸液(38-40℃、過熱に注意)、極端な症例では加温腹腔内洗浄(37-39℃ LRS)、IVアクセス不能なら骨内加温輸液。(3)心拍ありで加温進行中ならCPRは避ける—冷えた心臓は脆弱で胸骨圧迫が心室細動を誘発しうる。(4)心停止時は加温と並行して新生子CPRプロトコルに従う。(5)抗菌薬適応(敗血症が原因/結果として多い):アンピシリン22 mg/kg IV q6h+アミカシン15 mg/kg IV q24h。併存管理:低血糖(体温>34℃で補正)、脱水(加温した等張液)、低酸素子犬への酸素。回避すべき:皮膚直接接触の湯たんぽ(重度熱傷)、子犬を温水に浸す(cold shell-warm coreミスマッチ)、正常体温前の強制給餌、冷たい環境での回復。 [ECVN:Block] 【補助療法オプション — Equine & Canine Vet Nutrition (caninevet.jp)】 • カミデミルク (消化吸収しやすい流動性栄養): 食欲不振・クリティカルケア・経管栄養 ※カミデミルク: 完全腸閉塞は禁忌; 重症膵炎は低脂肪配合

予防

分娩環境温度(最重要):第1週=環境温29-32℃、第2週=27-29℃、第3週=24-27℃、第4週=22℃。室温調節器だけでなく分娩箱内の温度計を使用。子犬が熱源から離れたり近づいたりできるよう熱ランプを配置。出生後5-10分以内に温タオルで完全に乾燥。帝王切開で生まれた子犬は急速に体温低下するため術後回復を密に監視;手術室から分娩箱への搬送前に予加温。リスクのある子犬(LBW、吸乳力弱い、罹患腹)では最初の2週間は毎日直腸温チェック。新生子の正常体温範囲(成犬より低い)を繁殖家・飼い主に教育。十分な断熱床材(多層、隙間風なし)。腹全体での「creep zone」(ヒーティングパッドの範囲)の使用を確認—全子犬が競合なく利用できるか。孤児・拒絶子犬には市販新生子保育器または温水循環加温システムを使用;手動取扱・給餌時は予加温が必要。

予後

早期発見した軽度低体温:単純加温で生存率90-95%。中等度低体温で迅速かつ包括的ケアを実施:生存率70-85%だが多臓器ストレスのため次の24-48時間は死亡リスク上昇。重度低体温(<32℃):積極的介入でも死亡率50-90%;生存例も以後数週間にわたり敗血症・消化管合併症・発育遅延のリスク高。低体温反復:消化管・免疫系への累積障害;個々のエピソードを乗り越えても繰り返す子犬は最終的にフェードする例が多い。低体温+低血糖+敗血症の併発(フェーディングパピー三徴):生後1-2週の死亡率はしばしば>70%。長期:重度エピソード中に永続的神経損傷がなかった生存子犬は通常正常に発育する。

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