インスリノーマ
概要
自律的インスリン分泌による低血糖を引き起こす機能性膵臓ベータ細胞腫瘍。犬で最も多い膵腫瘍。好発品種:中大型犬(アイリッシュ・セター・ジャーマン・シェパード・ラブラドール・ボクサー・スタンダードプードル)。年齢:通常>5歳(中央値9〜10歳)。臨床症状は低血糖の重症度と血糖降下速度に依存:神経糖欠乏症状(発作・運動失調・認知機能低下・失明・虚脱)と交感神経副腎症状(筋振戦・不安・多食・多尿多飲)。Whippleの三徴:(1)低血糖に一致した臨床症状、(2)症状時血糖<60 mg/dL、(3)グルコース補給で改善。診断時に約50%がリンパ節・肝・大網に転移。
主な症状
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臨床徴候
犬におけるインスリノーマの臨床徴候は罹患臓器と腫瘍の種類により多様。一般的所見: 進行性の腫瘤形成・体重減少・食欲不振・元気消失・貧血。体表腫瘤では触知可能な腫脹・疼痛を、内臓腫瘍では腹部膨満・嘔吐・下痢・呼吸困難・リンパ節腫大などの非特異的症状を呈する。傍腫瘍症候群として高カルシウム血症(リンパ腫・肛門周囲腺癌)や低血糖(インスリノーマ)を合併することがある。
原因
機能性ベータ細胞腺腫または癌腫(悪性:診断時約50%)。確定した原因なし。好発品種は遺伝的感受性を示唆。稀:若齢犬でのネスジオブラストーシス(膵島過形成)。
病態生理
インスリノーマ細胞はインスリン合成・分泌能を保持するが正常フィードバック制御を失う--低血糖にもかかわらずインスリン分泌を継続。正常ベータ細胞は血糖<70 mg/dLでインスリン分泌を抑制するが、インスリノーマ細胞は抑制しない。病態カスケード:(1)血糖値によらない自律的インスリン分泌;(2)インスリンが筋肉・脂肪でのグルコース取り込み(GLUT4上方制御)と肝グリコーゲン合成を促進し、同時に糖新生・グリコーゲン分解・脂肪分解を抑制;(3)肝グルコース産生が末梢消費を下回り持続性低血糖;(4)血糖<60 mg/dLで拮抗調節反応(グルカゴン・エピネフリン・コルチゾル・GH)活性化→交感神経副腎症状;(5)神経糖欠乏:脳はグルコースのみに依存;血糖<50 mg/dLで大脳機能低下→発作・昏睡・遷延すれば不可逆的神経障害;(6)慢性低血糖による拮抗調節反応の下方制御--前駆症状なしに重篤な発作が突然発生。
診断
空腹時低血糖(<60 mg/dL)と同時測定の血清インスリン高値(不適切分泌)で強く疑診。修正インスリン/グルコース比(AIGR)>30で診断的。72時間絶食試験で低血糖を誘発し確認。腹部エコー/造影CTで膵臓腫瘤描出(しばしば<2cm、検出困難)。術中エコーで膵臓全体の精査。肝転移の有無を評価。中~大型犬の中高齢に好発。発作、後肢虚脱、振戦が主徴。
治療
急性低血糖クリシス(発作/虚脱):(1)50%ブドウ糖0.5〜1.0 mL/kg ゆっくりIV(25%に希釈);または発作中は口腔粘膜にKaroシロップ/蜂蜜を擦り付ける(意識消失時は経口投与禁止)。(2)2.5〜5%ブドウ糖CRIで継続(維持LRSへの添加--単独ボーラスは禁止;過剰ブドウ糖は追加インスリン分泌を刺激)。(3)グルコース後も発作継続:ジアゼパム0.5 mg/kg IV。(4)難治性:デキサメタゾン0.1〜0.2 mg/kg IV(インスリン分泌抑制+インスリン拮抗)。慢性内科管理:(5)高タンパク・複合炭水化物・低単純糖質食を1日3〜6回分割給餌。(6)プレドニゾロン0.5〜1.0 mg/kg/日PO--インスリン抵抗性誘導+肝糖新生増加。(7)ジアゾキシド10〜40 mg/kg/日PO分割q8〜12h--膵インスリン分泌抑制+糖新生増強;第一選択内科療法。(8)オクトレオチド10〜50 mcg SC q8〜12h(犬では反応不確定)。外科(推奨):(9)試験的開腹+部分/全膵切除;術中超音波で腫瘍局在;肝・リンパ節転移確認;凍結切片病理。術後無病生存期間中央値:転移なし12〜14ヶ月;転移あり6ヶ月。
予防
確立された予防法なし。体重管理がリスク低減の可能性。好発犬種では5歳以降から年1回の血糖モニタリングによる早期発見推奨。
予後
内科管理のみ:生存期間中央値12〜18ヶ月(ジアゾキシド+プレドニゾロン)。転移なし手術:中央値12〜18ヶ月、2年生存率30〜45%。局所転移あり手術:中央値6〜12ヶ月。術後正常血糖達成犬は生存期間有意に延長。術後48時間以内の低血糖は早期再発を予測。術後合併症:低血糖(残存腫瘍またはネスジオブラストーシス)または高血糖(正常膵島組織喪失--一過性糖尿病)。
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