膵外分泌不全症(EPI)
概要
膵臓の消化酵素産生不足により、栄養吸収障害を引き起こします。
主な症状
※ 症状をクリックすると、その症状を示す犬の他の疾患を確認できます
臨床徴候
犬における膵外分泌不全症(EPI)の臨床徴候は消化管病変の部位と病態により異なる。上部消化管: 嘔吐・吐血・食欲不振。小腸: 下痢(小腸性: 量多・回数少・体重減少を伴う)・嘔吐・腹痛。大腸: 下痢(大腸性: 量少・回数多・粘液・血便・テネスムス)。急性腹症: 強い腹痛・嘔吐・ショック徴候・腹部触診で腫瘤や緊張感(GDV・腸捻転・腸閉塞)は緊急評価が必要。
原因
膵腺房萎縮(PAA、免疫介在性、最多):ジャーマンシェパードに好発(遺伝性)、ラフコリー。慢性膵炎の末期。膵腫瘍。若齢〜中齢犬に多い(PAA:1〜5歳)。血清TLI(trypsin-like immunoreactivity)<2.5μg/Lで確定診断。
病態生理
膵腺房細胞の90%以上が喪失→消化酵素(リパーゼ・アミラーゼ・プロテアーゼ)の著明な分泌低下→脂肪・蛋白質・炭水化物の消化不全→吸収不良→大量の黄色〜灰白色・脂肪光沢のある軟便(脂肪便)・体重減少・多食。小腸内細菌過増殖(SIBO)の合併が高率。コバラミン(VitB12)欠乏が予後に影響。
診断
犬のEPIの診断はTLI(トリプシン様免疫反応性)測定で確定する。血清TLI: <2.5 μg/L(犬)でEPI確定(正常5.7-45.2)。12時間絶食後の測定が必須。TLIは犬EPIの診断でゴールドスタンダード(感度・特異度共に>95%)。補助検査: コバラミン(B12)低値(60-80%で低下 — 回腸吸収不良+小腸細菌過増殖)、葉酸上昇(SIBO時)。糞便検査: 脂肪便(Sudan III染色)は参考所見(特異度低い)。糞便エラスターゼ-1: 犬では信頼性が低い。好発: ジャーマンシェパード(膵腺房萎縮 — PAA、遺伝性)、ラフコリー。若〜中年齢。臨床徴候: 多食にも関わらず体重減少、大量の軟便(脂肪便)、被毛不良。慢性膵炎後のEPIも増加。
治療
【膵酵素補充療法(PERT)】生涯必須。粉末状膵酵素(パンクレアチン/パンクレリパーゼ)を毎食に混合。推奨量:1 tsp/10kg/食(製品により調整)。食前20分のプレインキュベーション(食事に混合して放置)が消化効率を向上。ブタ由来生膵臓の細切も有効だが入手困難。酵素は胃酸で一部失活→オメプラゾール(1 mg/kg PO q24h)併用で効率向上の報告あり。 【食事療法】低脂肪・高消化性食で開始(Hill's i/d Low Fat、Royal Canin Gastrointestinal Low Fat)。改善後は段階的に通常食へ移行可。中鎖脂肪酸(MCT)は膵リパーゼ非依存で吸収されるため有用。サイリウム(Psyllium/オオバコ)1-2 tsp/10kg/食 — 食物繊維として便の安定化に寄与。ただし過剰な食物繊維は酵素活性を阻害する可能性があるため適量を守る。 【プロバイオティクス・プレバイオティクス】プロバイオティクス(E. faecium SF68、S. boulardii)— EPI犬ではディスバイオーシスが高率に合併。プレバイオティクス(FOS、MOS)で腸内環境改善。 【コバラミン(VitB12)補充】吸収障害のため補充が必須。血清コバラミン<300 ng/Lで開始。シアノコバラミン 250-1500 μg SC q7d×6週→q14d→q28d。経口高用量補充(1 mg/日PO)も最近のエビデンスで有効。 【SIBO合併時】メトロニダゾール(10 mg/kg PO q12h×28日)またはチロシン(25 mg/kg PO q12h×6週)。 【診断】血清TLI<2.5 μg/Lで確定。好発:ジャーマンシェパード(膵腺房萎縮=PAA、免疫介在性)、ラフコリー。治療反応は良好だが生涯管理が必要。参考文献: Westermarck (2005) JAVMA, Batchelor (2007) JVIM, Volkmann (2017) JVIM.
予防
好発犬種の繁殖管理。確定診断後は膵酵素補充療法(パンクレアチン散を毎食混合)が生涯必要。コバラミン補充(注射)、低脂肪・高消化性食。
予後
犬における膵外分泌不全症(EPI)の予後は基礎病態・重症度・治療開始時期により異なる。早期診断と病態に応じた適切な治療・モニタリングにより多くの症例で良好な経過が期待できるが、進行例・合併症を伴う例では予後が悪化しうる。
関連する薬品
※ 薬品名をクリックすると詳細な投与量・副作用情報を確認できます
消化器の他の疾患(犬)
VetDictで犬の鑑別診断を行う
症状チェッカーを使う関連する疾患
VetDict は獣医師(DVM)が開発した臨床支援ツールです。