拡張型心筋症(DCM)
概要
心室の偏心性肥大(拡張)と収縮機能不全(収縮力低下)を特徴とする一次性心筋疾患。大型/超大型犬種に好発:ドーベルマン・ピンシャー(DCM最多犬種——生涯発症率58%;心筋細胞消失仮説)、アイリッシュ・ウルフハウンド、グレート・デーン、ボクサー(不整脈性右室心筋症ARVC亜型)、コッカー・スパニエル(栄養性DCMの可能性)。食餌関連性DCM:FDA 2018〜2019年調査(グレインフリー/豆類豊富食との関連;ゴールデン・レトリーバーに多い;機序不明;食餌変更で一部回復可能)。無症候性DCM(心エコー異常だが臨床症状なし)がCHF発症前に数ヶ月〜数年持続することがある。突然心臓死(心室性不整脈由来)が主要合併症——特にドーベルマン。
主な症状
原因
遺伝的素因(ドーベルマン・アイリッシュ・ウルフハウンド等での家族性DCM——特定変異が同定)、特発性、タウリン欠乏(食餌性)、カルニチン欠乏(ボクサー・コッカー)、心筋炎(ウイルス性・免疫介在性)、毒性(ドキソルビシン)。
病態生理
DCMは進行性の心筋細胞消失・機能不全→心室拡張(Frank-Starling機序:前負荷増大→1回拍出量増加を代償しようとするが、壁ストレスが増大)→偏心性肥大が特徴。主要病態変化:(1)収縮機能低下(収縮力低下・EF<35%):前方拍出量不足→代償性神経体液性活性化(交感神経・RAAS・ADH);(2)神経体液性活性化:カテコールアミンが短期的にHRと収縮力を増加させるが長期的には心筋毒性・β受容体下方制御・不整脈を引き起こす;アルドステロンがNa+/水貯留→容量過負荷→さらなる拡張;(3)心室壁ストレス(ラプラスの法則):拡張した菲薄な壁では壁ストレスが著明に増大→心内膜下の灌流障害;(4)不整脈:ドーベルマンDCM:VPC・VTが心筋細胞消失による構造的不均一性から発生——CHF前の突然死の主因。ボクサーARVC:右室心筋の脂肪浸潤→右室VT;(5)栄養性DCM仮説:グレインフリー食によるタウリン欠乏(素因のある犬種)→心筋細胞Ca感受性とミトコンドリア機能障害→収縮力低下。
治療
ACVIMコンセンサス2019に基づくステージ別治療:無症候性DCM(StageB):ピモベンダン0.25〜0.3 mg/kg PO 12時間毎(PROTECT試験:ドーベルマンでCHFまたは突然死までの期間を9ヶ月延長)。cTnI高値またはホルター>100 VPCs/24hがあればソタロール1.5〜2 mg/kg PO 12時間毎(ドーベルマン)またはメキシレチン5〜8 mg/kg PO 8時間毎(ボクサー)を追加。CHF(StageC):(1)フロセミド2〜4 mg/kg PO 12時間毎;(2)ピモベンダン;(3)ACE阻害薬(エナラプリルまたはベナゼプリル);(4)スピロノラクトン2 mg/kg PO 24時間毎(アルドステロン拮抗)。難治性CHF:トルセミド、アムロジピン、ジゴキシン(心房細動時)。食餌関連DCM:豆類豊富なグレインフリー食を中止;タウリン補充(全血タウリン<200 nmol/mLの場合)500〜1,000 mg PO 12時間毎。 [ECVN:Block] 【補助療法オプション — Equine & Canine Vet Nutrition (caninevet.jp)】 • MSM+アミノコンプリート (MSM+必須アミノ酸(BCAA中心)): 組織修復・筋肉維持・肝腎栄養サポート • NMNミトコンドリアアシスト (NMN+α-リポ酸+システイン+プロバイオティクス): 細胞エネルギー代謝・サーチュイン活性化・抗老化 ※MSM+アミノコンプリート: 重度肝・腎不全は蛋白負荷に留意
予防
好発犬種での年1回スクリーニング(心エコー+24時間ホルターECG):ドーベルマンは3〜4歳から。遺伝子検査(ドーベルマンDCM:PDK4遺伝子変異)が利用可能;グレインフリー/豆類豊富食の回避;リスク犬種でのタウリン測定。
予後
犬種により大きく異なる。ドーベルマン:CHF発症後の生存期間中央値3〜6ヶ月;無症候性DCMは1〜4年間持続してからCHFに移行;無症候性期でも突然死リスクが高い。アイリッシュ・ウルフハウンド:CHF後の生存期間中央値4〜8週間。食餌関連DCM:食餌変更+タウリン補充で一部は完全に回復(6〜12ヶ月の連続心エコーで確認)。ホルター上のVPC数が突然死リスクを予測。
関連する薬品
※ 薬品辞書で詳細な投与量・副作用情報を確認できます
循環器の他の疾患(犬)
VetDictで犬の鑑別診断を行う
症状チェッカーを使う関連する疾患
VetDict は獣医師(DVM)が開発した臨床支援ツールです。