瞳孔膜遺残
概要
胎生期の血管膜(tunica vasculosa lentis)が完全に退縮せず、虹彩-虹彩・虹彩-角膜・虹彩-水晶体の繊維束が出生後も残存する先天性異常。多くは無症候の偶発所見だが、虹彩-角膜型・虹彩-水晶体型では局所的な角膜混濁や白内障を引き起こし視覚に影響する。基底ブリーダー検査(CAER/旧CERF)で必須スクリーニング項目。バセンジー、ペンブロークコーギー、チャウチャウ、マスチフ等で遺伝性報告あり。
主な症状
原因
バセンジー(常染色体劣性、よく特性化されている)、ペンブロークウェルシュコーギー、チャウチャウ、マスチフ、コッカースパニエル、オールドイングリッシュシープドッグの遺伝性。任意品種での散発例あり。感染性・環境性の原因なし—純粋にTVL退縮の発生学的・遺伝学的異常。母体ビタミンA低下は歴史的に示唆されたが現代研究では未確認。
病態生理
発生学的背景:水晶体血管膜(TVL)は前方の瞳孔膜と後方の硝子体血管系から構成され、発生中の水晶体に栄養を供給する。正常な退縮は妊娠5週から生後約6週にかけて起こる。PPMは前方瞳孔膜の不完全退縮を表す。4つの解剖学的型:(1)虹彩-虹彩型(最多、視軸を遮らない限り臨床的影響なし)、(2)虹彩-角膜型(角膜接着部に角膜内皮機能不全→白斑/浮腫が角膜内面の白点として可視化)、(3)虹彩-水晶体型(接着部の前方水晶体嚢に局所性白内障、通常限局性だが進行することも)、(4)虹彩-水晶体型+白内障(最重症、進行性)。組織学的には、遺残繊維束には原始血管組織、メラノサイト、色素性間質細胞が含まれる。後癒着(ぶどう膜炎による後天性)とは区別される。
治療
診断:(1)散瞳下(トロピカミド1%点眼)の細隙灯顕微鏡検査で繊維束と接着部を同定、(2)型(虹彩-虹彩/角膜/水晶体)、部位、密度、二次病変(角膜混濁・白内障)を記録、(3)眼圧測定で併存緑内障除外、(4)虹彩構造に歪みがあれば隅角検査。CAER/OFA-Eye認定検査は獣医眼科専門医(DACVO/DECVO)による繁殖スクリーニング必須。型別治療:(1)虹彩-虹彩型PPM、視軸閉塞なし:治療なし、年1回のCAER検査でフォロー。(2)虹彩-角膜型PPMで局所角膜混濁:視軸に影響しない限り通常治療なし;局所角膜浮腫があれば点眼潤滑剤;重度進行例では層状角膜移植術(専門医紹介)。(3)虹彩-水晶体型PPMで前方水晶体嚢白内障:6-12ヶ月毎の連続細隙灯検査で白内障進行をモニタリング;成熟・びまん性となり視覚障害をきたす場合は獣医眼科専門医による超音波乳化吸引術(専門施設、眼内レンズ移植、術後の局所抗炎症薬6-8週間)。(4)併発二次性緑内障(稀):局所抗緑内障薬(ラタノプロスト0.005% q12-24h、ドルゾラミド2% q8-12h、チモロール0.5% q12h)。注意:繊維束切断(外科的PPM切離)は推奨されない—術後炎症が通常未治療病変より悪化、選択された重度虹彩-角膜例を除く。繁殖判断:虹彩-虹彩型PPMのみは繁殖可(多くの登録機関で許可);虹彩-角膜型・虹彩-水晶体型・白内障合併は繁殖不可(CAER PASS/FAILガイドライン)。 [ECVN:Block] 【補助療法オプション — Equine & Canine Vet Nutrition (caninevet.jp)】 • NMNミトコンドリアアシスト (NMN+α-リポ酸+システイン+プロバイオティクス): 細胞エネルギー代謝・サーチュイン活性化・抗老化 • CPパウダー (プレバイオ+プロバイオ+サイリウム): 腸内細菌叢正常化・腸管バリア強化・腸腎連関 ※CPパウダー: 完全腸閉塞は禁忌
予防
繁殖スクリーニング:眼科専門医(DACVO/DECVO)による年1回のCAER検査—8週齢(典型的退縮完了時期)から開始し年1回継続。遺伝子検査はほとんどの品種で商業的に未提供(研究段階)。系統管理:バセンジー等の高有病率品種では、PPMの型と重症度の血統レベルデータを維持;虹彩-角膜型・虹彩-水晶体型の系統を繁殖プログラムから除外。母犬健康:妊娠犬にAAFCO繁殖用完全食を給与(標準必要量を超えるビタミンA最適化の特異的エビデンスなし)。新生子検査:高リスク腹では子犬譲渡前に8週齢眼科検査を推奨。
予後
虹彩-虹彩型PPM:予後良好、生涯安定、機能的影響なし。虹彩-角膜型PPMで小さな局所混濁(<2 mm):視覚は通常影響なし、ほとんどの症例で進行なし。虹彩-水晶体型PPMで局所前方水晶体嚢白内障:60-80%は生涯安定、20-40%は進行性白内障となり最終的に超音波乳化吸引術が必要。重度広範囲PPMでびまん性角膜混濁または成熟白内障:介入なしでは視覚著明障害;超音波乳化吸引術の成功率は経験豊富な術者で85-90%だが、生涯にわたる網膜剥離・緑内障・後嚢混濁の術後モニタリングが必要。参考文献:Roberts. JAVMA 1967(原典バセンジー研究);Strom & Iwabe. JSAP 2010(バセンジーPPM遺伝学);Sapienza & Quinn. Vet Clin North Am Small Anim Pract 2020(CAERガイドライン);ACVO Genetics Committee Recommendations 2024。
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