原始硝子体過形成遺残(PHPV/PHTVL)
概要
胎生期の硝子体血管系および原始硝子体の退縮不全による先天性後眼部異常。ドーベルマン・ピンシャー(最高有病率)で常染色体不完全優性遺伝として確立されている。重症度は水晶体後面の軽度混濁(Grade 1、多くは無症候)から、水晶体後線維血管膜と網膜剥離による失明(Grade 6)まで幅広い。スタフォードシャー・ブルテリア、ミニチュアシュナウザー、シェットランドシープドッグでも報告あり。CAER/OFA-Eye検査の重要スクリーニング項目。
主な症状
原因
ドーベルマン・ピンシャー(常染色体不完全優性、よく特性化されている;同腹内でも重症度に幅)、スタフォードシャー・ブルテリア(欧州・英国で劣性)、ミニチュアシュナウザー、シェットランドシープドッグ、グレーター・スイス・マウンテンドッグの遺伝性。任意品種での散発例あり。感染性・環境性の原因なし—純粋に硝子体血管系退縮の発生学的・遺伝学的異常。妊娠中の母体感染(CHV-1等)は歴史的に示唆されたが原因として未確認。
病態生理
発生学的背景:原始硝子体は妊娠3-6週に硝子体動脈および水晶体血管膜(TVL)から発生し、水晶体後面に栄養供給する。正常な退縮は妊娠6週から生後6週にかけて起こり、透明な二次硝子体が形成される(正常成犬眼の唯一の遺残はクロケ管)。PHPV/PHTVLは退縮不全により発生:(1)PHTVL単独—水晶体後面被膜性プラーク(軽度)、(2)PHTVL + PHPV—水晶体後混濁+水晶体後線維血管膜、(3)重度PHPV—硝子体動脈完全開存と広範な線維血管組織。Stades分類(1976、改訂版):Grade 1=水晶体後嚢点状/斑状混濁(無症候、生涯安定);Grade 2=局所性後円錐水晶体または被膜肥厚;Grade 3=水晶体後線維血管プラーク、軽度白内障;Grade 4=水晶体後線維血管膜と進行性白内障;Grade 5=水晶体形成異常、網膜牽引;Grade 6=持続性硝子体動脈、網膜剥離、小眼球症。組織学的には原始間葉組織を伴う遺残血管組織。重要:PPM(前方瞳孔膜遺残)とは別の疾患—PHPV/PHTVLは後眼部の異常。
治療
診断:(1)散瞳下(トロピカミド1%点眼)の細隙灯顕微鏡検査で前眼部評価、(2)倒像鏡検査と眼底検査で後眼部評価、(3)B-mode眼超音波検査(10-15 MHzトランスデューサー)—硝子体動脈開存・水晶体後膜・網膜状態を確認、(4)視覚評価が必要なら網膜電図(ERG)、(5)獣医眼科専門医(DACVO/DECVO)によるCAER/OFA-Eye認定検査が繁殖スクリーニングに必須。グレード別治療:Grade 1-2(軽度水晶体後嚢混濁):治療なし、年1回CAER検査でフォロー—多くの症例で生涯安定。Grade 3(局所水晶体後線維血管プラーク、軽度白内障):年1回眼科モニタリング;白内障進行率は生涯で20-40%;視覚障害をきたす白内障に進行した場合のみ超音波乳化吸引術を検討。Grade 4(進行性白内障+水晶体後線維血管膜):視覚保持の可能性があれば専門医による平面部硝子体切除術+水晶体摘出術+膜剥離術;静止して疼痛のない眼は温存。Grade 5-6(重度で網膜牽引/剥離):外科的処置は技術的に困難で多くは不成功;静止眼は観察;疼痛(二次性緑内障)または小眼球症で慢性ぶどう膜炎を伴う場合は眼球摘出術。併発緑内障:当初は局所抗緑内障薬(ラタノプロスト0.005% q12-24h、ドルゾラミド2% q8-12h、チモロール0.5% q12h);治療抵抗性または末期眼は眼球摘出術または義眼装着を伴う眼球内容除去術。併発眼内出血(稀、開存硝子体動脈から):局所散瞳薬(アトロピン1% q12h)と抗炎症薬(プレドニゾロン酢酸エステル1% q6h)を2-3週間。繁殖判断:ドーベルマンでGrade 2以上のPHPV/PHTVLは繁殖不可(CAER FAIL);Grade 1のみは繁殖家の判断(許可する登録機関と制限する機関がある)。罹患犬には遺伝カウンセリング。
予防
繁殖スクリーニング:眼科専門医(DACVO/DECVO)による年1回のCAER検査—8週齢(硝子体血管系退縮完了時期)から開始し、繁殖個体は年1回継続。ドーベルマン・ピンシャー・クラブの遺伝子登録で罹患系統を管理。遺伝子検査は商業的に未提供(ドーベルマンで研究段階)。系統管理:Grade 2以上のPHPV/PHTVLが記録されたドーベルマンは繁殖を避ける;保因者の親系統を遡って特定(常染色体不完全優性のため、Grade 1の親からもGrade 4-6の子犬が生まれうる)。母犬健康:妊娠犬にAAFCO繁殖用完全食を給与(標準必要量を超えるビタミン・サプリメント戦略でPHPV/PHTVL予防の特異的エビデンスなし)。新生子検査:高リスク腹では子犬譲渡前に8週齢眼科検査を推奨;欧州のドーベルマン登録機関では必須。
予後
Grade 1:予後良好、生涯安定、機能的影響なし、進行なし。Grade 2:80-90%は生涯安定、10-20%は数年でGrade 3-4へ進行することがある。Grade 3(局所白内障):60-75%は生涯機能視覚を保持、25-40%は視覚障害をきたす白内障へ進行し外科的介入が必要;超音波乳化吸引術の成功率は線維血管癒着のためGrade 3で70-80%(通常の白内障より低い)。Grade 4:介入なしでは通常視覚著明障害;硝子体切除術+水晶体摘出術+膜剥離術の併用で視覚保持成功率約50-70%、生涯にわたる網膜剥離(10-20%リスク)・緑内障(20-30%リスク)・持続性ぶどう膜炎の術後モニタリングが必要。Grade 5-6:重度視覚喪失、進行性合併症(緑内障・出血・眼球癆)が頻発し30-50%で眼球摘出術に至る。参考文献:Stades. JAAHA 1980(原典ドーベルマンPHPV研究);Boevé et al. Vet Q 1992(ドーベルマン遺伝学);Leon. Vet Ophthalmol 2007(臨床分類);Sapienza & Quinn. Vet Clin North Am Small Anim Pract 2020(CAERガイドライン);Gelatt's Veterinary Ophthalmology 第6版 Ch 14。
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