椎間板ヘルニア(IVDD)
概要
犬で最も多い脊髄疾患。2つの主要型:ハンセンI型(軟骨異栄養性犬種:ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグ等;髄核の石灰化と急性逸脱)、ハンセンII型(大型犬;線維性輪状部の慢性膨隆、進行性)。胸腰移行部(T11〜L3)が最多部位。臨床グレード:I度(疼痛のみ)→II度(歩行可能な不全麻痺)→III度(歩行不能な不全麻痺)→IV度(麻痺、深部痛覚あり)→V度(麻痺、深部痛覚消失)。深部痛覚消失48時間超のV度は予後不良。手術vs内科治療の選択が最重要臨床決定。
主な症状
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臨床徴候
犬における椎間板ヘルニア(IVDD)の臨床徴候は罹患部位(前脳・脳幹・小脳・脊髄・末梢神経)により局在化所見を示す。前脳: 発作・行動変化・盲目・周徊・運動失調。脳幹: 脳神経障害・運動失調・意識障害。小脳: 企図振戦・低測定運動失調・広基歩行。脊髄: 四肢麻痺/対麻痺・排尿障害・反射異常(病変高位で異なる)。末梢神経: 筋萎縮・反射低下・遠位部優位の弛緩性麻痺。
原因
ハンセンI型:軟骨異栄養性犬種(ダックスフンド、ビーグル、フレンチ・ブルドッグ、コッカー・スパニエル等)の髄核石灰化。ハンセンII型:大型/巨大犬種(ジャーマン・シェパード、ラブラドール等)の変性椎間板膨隆。外傷が誘因になることもある。
病態生理
ハンセンI型:軟骨異栄養性犬種では若齢から髄核の軟骨様化生(石灰化)が進行。石灰化した髄核が変性/断裂した線維輪を突き破り急性脱出→脊髄への急性圧迫・打撃損傷。2つの損傷機序:(1)一次的機械的傷害:圧迫+打撃(速度依存性);(2)二次的傷害カスケード:虚血(血管痙攣+静脈うっ血+自動調節障害→浮腫)・フリーラジカルによる脂質過酸化・グルタミン酸興奮毒性・電解質不均衡(Na+/K+ポンプ不全→細胞内Na+蓄積)・ミトコンドリア機能障害→遅発性神経細胞/オリゴデンドロサイトのアポトーシス/壊死。灰白質が一次損傷に脆弱;白質軸索はワレリー変性。進行性脊髄軟化症(PMM):上行性/下行性出血性壊死——稀だが致死的合併症。深部痛覚(脊髄視床路)が最も損傷抵抗性;消失は重篤な脊髄損傷を示す。
診断
犬の椎間板ヘルニア(IVDD)の診断は神経学的検査と画像検査に基づく。神経学的検査: 病変部位の特定(C1-5/C6-T2/T3-L3/L4-S3)、グレード分類(I-V)。Grade I: 疼痛のみ。Grade II: 歩行可能な不全麻痺。Grade III: 歩行不能な不全麻痺。Grade IV: 麻痺(深部痛覚あり)。Grade V: 麻痺(深部痛覚消失)。MRI: 確定診断の標準 — 椎間板突出/脱出の部位・程度、脊髄圧迫/浮腫の評価。CT(±造影脊髄造影): MRI不可時の代替。X線: 椎間板腔狭小化、椎間板石灰化(Hansen Type I好発犬種のスクリーニング)。好発: ダックスフンド(Type I最好発、リスク10-12倍)、フレンチブルドッグ、ビーグル、コーギー、シーズー。深部痛覚消失後48時間以内の手術が推奨。
治療
I〜II度(疼痛・歩行可能な不全麻痺):厳格なケージレスト4〜6週間(最重要——活動制限が再損傷を防ぐ);NSAIDs(カルプロフェン4.4 mg/kg PO 24時間毎またはメロキシカム0.1 mg/kg PO 24時間毎);ガバペンチン5〜10 mg/kg PO 8〜12時間毎;メトカルバモール22〜44 mg/kg PO 8時間毎。NSAIDsとステロイドの併用禁忌(GI出血)。III度:外科的減圧(片側椎弓切除術または腹側窓)推奨——早期手術で転帰改善;48時間以上の遅延で予後著明悪化。IV〜V度:外科的緊急手術——発症から24〜48時間以内に片側椎弓切除。深部痛覚消失後48時間超のV度:手術しても予後不良(深部痛覚消失後<48hで手術すれば50%回復;>48hで<5%)。グルココルチコイド:急性脊髄損傷には推奨しない(NASCIS III:有益性なく敗血症・GI出血等の合併症が増加)。リハビリテーション:術後24〜48時間以内から水中運動療法・固有感覚訓練。膀胱管理:排尿不可の場合は8時間毎に膀胱圧出/カテーテル排尿。
予防
体重管理(肥満が椎間板疾患の重症度を増悪)、好発犬種での高衝撃運動制限(ダックスフンドは階段禁止・家具への飛び乗り禁止)、手術時の予防的椎間板窓開術(論議あり)。一部の犬種でCDDY/CDPA変異の遺伝子検査が利用可能。
予後
I〜II度(安静):回復率90%以上。III度+手術:85〜95%。IV度+手術:70〜85%。V度(深部痛覚あり、<48h手術):50〜60%。V度(深部痛覚消失>48h):手術にかかわらず<5%。進行性脊髄軟化症:不可避的に致死的(急速上行時は安楽死適応)。
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