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犬 (Dog) 循環器 緊急

胎児 distress・胎児徐脈(分娩前後)

Fetal Distress / Fetal Bradycardia (Peri-parturient) / 胎児 distress・胎児徐脈(分娩前後)

概要

妊娠後期から分娩中に胎児心拍数(FHR)異常として検出される急性の胎児苦痛状態。犬の末期妊娠正常域は170-230 bpmで、持続的な180 bpm未満は胎児ストレス、150-160 bpm以下は重度低酸素を意味し、通常は緊急帝王切開が必要となる。分娩前後の娩出判断の中核となる所見。

主な症状

腹痛 不安行動 過度のパンティング 生殖器分泌物 無気力

原因

子宮胎盤機能不全、臍帯圧迫・脱出、胎盤早期剥離、難産の遷延による二次性子宮無力症、母体全身性疾患(敗血症、ショック、重度貧血、心疾患)、帝王切開術中の母体麻酔・低血圧、オキシトシン過剰刺激(強縮性収縮)、既存IUGRの終末期増悪、胎子奇形、上行性子宮内感染。

病態生理

胎児徐脈は低酸素性の心筋抑制(迷走神経反射+直接的心筋虚血)を反映する。原因:(1)子宮胎盤機能不全(IUGRを背景とした慢性→急性増悪)、(2)臍帯圧迫(急性機械的、収縮時の一過性から持続性閉塞まで)、(3)胎盤早期剥離、(4)遷延/閉塞性分娩による子宮疲労、(5)母体低血圧・ショック・麻酔(帝王切開術中の医原性)、(6)胎便排出(進行した低酸素ストレス徴候)。子宮静止期の正常FHRは170-230 bpm。子宮収縮と同期する一過性低下は生理的(ヒトでいう early/variable deceleration 類似)だが、回復しない徐脈は代償破綻を意味する(Davidson & Baker 2009、Gil 2014、Zone & Wanke 2001)。

治療

【緊急評価と娩出判断】(1)経腹超音波(B-mode + M-mode またはカラーDoppler)で各胎子のFHRを15-30秒以上カウントし、複数胎子の傾向を記録。(2)FHRベーストリアージ:>=200 bpm=比較的安心、観察継続;180-200 bpm=15-30分毎の頻回再評価;<180 bpm持続=胎児 distress、手術チームを待機し母体・分娩状況を緊急評価;<=150-160 bpm=重度低酸素、遅延なく緊急帝王切開(30-60分以上の遅延で胎子死亡)。(3)母体蘇生(一時的にFHR改善→数分の猶予を得るが、distress持続なら娩出の代替にならない):IV結晶質液ボーラス(LRS 20 mL/kg、15-30分)、マスク酸素投与(2-5 L/分)、左側臥位(後大静脈圧迫解除)、オキシトシン投与中なら中止(強縮性収縮)、低血圧補正(輸液反応不良ならドパミン2-5 μg/kg/分)。(4)緊急帝王切開:導入から娩出までの時間を最小化。α2作動薬(デクスメデトミジン)は胎盤灌流低下のため導入に避ける。推奨:プロポフォール4-6 mg/kg IV導入、イソフルラン/セボフルランを低MAC維持、高用量長時間の吸入麻酔は新生子抑制のため回避。血行動態不安定な母犬では局所麻酔+軽鎮静も考慮。新生子チームに通知:保温(環境32℃)、球状吸引器、清潔タオル、5%ブドウ糖、ナロキソン(母体オピオイド投与なら0.01-0.04 mg/kg)、ドキサプラム(1-5滴舌下、議論あり—慎重に)。(5)新生子蘇生:気道確保(鼻・口咽頭を球状吸引器で即時吸引、子犬を振り回さない—頭蓋内出血リスク)、タオルで活発に刺激し呼吸誘発、無呼吸なら酸素投与、徐脈/心停止なら胸骨圧迫100-120回/分+人工呼吸、換気無反応ならエピネフリン0.01 mg/kg 気管内または臍帯静脈IV。哺乳前に35-37℃まで加温(低体温子犬はミルクを消化不能)。(6)娩出後:母犬の出血、胎子・胎盤遺残(術後超音波)、メトライティスを監視。子犬は最初の48-72時間はq2-4hで体重・体温・吸乳力・脱水を監視。

予防

高リスク妊娠の早期特定:IUGR背景、短頭種/トイ種、高齢出産、既往の周産期喪失、感染スクリーニング陽性(ブルセラ、CHV-1)。45日目から連続超音波でFHRを記録、基礎トレンドが代償破綻の検出に役立つ。高リスク母犬では自然分娩を待たず62-63日目の選択的帝王切開を計画。分娩中は第二期開始時にFHRを測定し、進行中は30-60分毎に再確認。高用量オキシトシンの無監視投与を避ける(強縮性収縮で徐脈)。高リスク母犬の交配前に外科・新生子蘇生準備を整えておく。

予後

胎子:持続徐脈 <150-160 bpm から30-60分以内の帝王切開で胎子生存率40-70%(重症度・持続時間に大きく依存)。重度徐脈発症から60-90分以上の遅延では通常、胎子死亡または重度神経損傷。軽中等度 distress(FHR 160-180 bpm)×迅速娩出:生存率70-90%。母体:通常帝王切開では予後良好、併発性敗血症/DIC/子宮破裂がない限り死亡率<5%。新生子神経後遺症:長時間低酸素から蘇生された子犬では窒息関連脳症が起こりうるが、長時間の心停止を伴わない生存子犬はほぼ正常に回復。再発:基礎原因が繰り返せばリスク高(短頭種、IUGR、母体疾患等)—今後の妊娠では選択的帝王切開の計画を強く推奨。

関連する薬品

💊 プロポフォール 💊 イソフルラン 💊 セボフルラン 💊 メデトミジン 💊 デクスメデトミジン 💊 ナロキソン 💊 オキシトシン 💊 ドパミン

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