肥大型心筋症
概要
猫で最も多い心臓病(全猫の約15%、一部品種では30%まで)。原因不明の左室求心性肥厚を特徴とする。うっ血性心不全(CHF)、動脈血栓塞栓症(ATE)、突然死のリスクあり。現在はACVIM Consensus 2020により病期A-Dに分類される(Luis Fuentes et al. JVIM 2020)。
主な症状
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臨床徴候
猫における肥大型心筋症の臨床徴候は心機能低下の程度により段階的に進行する。代償期(無症候): 心雑音が唯一の所見、聴診で発見される。早期心不全: 運動不耐性・咳(左心不全)・腹水(右心不全)。進行性心不全: 呼吸困難・チアノーゼ・失神・夜間咳。末期: 起座呼吸・肺水腫・心原性ショック。猫では FATE(大動脈血栓塞栓症)として急性後肢麻痺・冷感・疼痛・パルス消失で発症することがある。
原因
サルコメア蛋白の遺伝子変異が原因(メインクーンとラグドールのMyBPC3が最もよく知られる)。他品種では多遺伝子性。好発品種: メインクーン、ラグドール、ブリティッシュショートヘア、スフィンクス、ペルシャ、ノルウェージャンフォレストキャット。HCM表現型を呈する二次性原因を除外すべき: 甲状腺機能亢進症、全身性高血圧、末端肥大症、拘束型心筋症。
病態生理
サルコメア蛋白変異により心筋細胞の肥大と配列異常が生じ、左室の求心性肥厚と保たれた(または亢進した)収縮能、しかし拡張機能障害を引き起こす。左室コンプライアンス低下により左房圧上昇 → 左房拡大 → うっ血性心不全(肺水腫、胸水)。左房拡大とうっ滞により左心耳での血栓形成が起こり → 動脈血栓塞栓症(最も多くは大動脈三分岐部、急性後肢麻痺と大腿動脈拍動消失)。動的左室流出路閉塞(僧帽弁SAM)が約70%の症例に発生。心室性不整脈による突然死も一般的。
診断
猫のHCM診断は心エコーで確定する。心エコー: 左室壁厚>6mm(拡張末期)で確定。対称性/非対称性肥大、SAM(僧帽弁前尖の収縮期前方運動)、LVOT狭窄。LA/Ao比>1.5で左房拡大。FS%: 通常正常〜亢進(拡張機能障害が主体)。組織ドプラ(TDI): E'低下で拡張機能障害を検出。NT-proBNP: >100 pmol/Lでスクリーニング陽性。cTnI: 心筋障害のバイオマーカー。胸部X線: バレンタインハート型心陰影、肺水腫、胸水。遺伝子検査: MYBPC3変異(メインクーン — A31P、ラグドール — R820W)。二次性肥大の除外: T4(甲状腺機能亢進症)、血圧(全身性高血圧)。好発: メインクーン、ラグドール、ブリティッシュショートヘア、スフィンクス。猫で最も一般的な心疾患。ATE(血栓塞栓症)のリスク評価必須。
治療
【ACVIM Consensus 病期別治療(Luis Fuentes et al. JVIM 2020)】 病期A(リスク品種だが無病変): 治療不要、定期エコースクリーニング。病期B1(無症候性・CHF/ATE低リスク): 経過観察。重度動的LVOT閉塞がある場合のみアテノロール 6.25-12.5 mg/匹 PO q12h(ルーチン使用での生存利益は証明されていない)。病期B2(無症候性・高リスク — 左房拡大、著明な左室肥厚): ATE予防にクロピドグレル 18.75 mg/匹 PO q24h(FATCAT試験: アスピリンに優る)。病期C(CHF合併・既往): フロセミド 1-2 mg/kg IV/IM q1-4h(急性期)→ 1-2 mg/kg PO q12-24h(維持)、酸素療法、胸水あれば胸腔穿刺、重度肺水腫にニトロプルシドCRI。ACE阻害薬(ベナゼプリル 0.25-0.5 mg/kg PO q24h)。閉塞型HCMではピモベンダン原則禁忌、非閉塞型かつ重度収縮不全には使用検討。病期D(難治性CHF): 利尿薬強化、トラセミド、酸素、緩和ケア。ATE: オピオイド鎮痛(メサドン 0.1-0.3 mg/kg IV/IM q2-4h)、保温は避ける、保守的輸液、24-72時間の灌流評価。不整脈管理: ソタロール 2 mg/kg PO q12h またはジルチアゼム 1.5-2.5 mg/kg PO q8h。
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予防
リスク品種(メインクーン、ラグドール、ブリティッシュショートヘア、スフィンクス)の定期心エコー。メインクーン(A31P変異)とラグドール(R820W変異)はMyBPC3遺伝子検査。B1猫は年次心エコー、B2猫は4-6ヶ月毎の心エコー。繁殖個体は心エコースクリーニング必須。
予後
ACVIM Consensus 2020 予後データ: 病期B1 — 5年時点で生存中央値未到達(多くは無症候性で正常寿命)。病期B2 — 生存中央値約2-4年、ATEリスク約25%。病期C — 初回CHFから生存中央値6-18ヶ月。病期D — 生存中央値は数週間〜数ヶ月。ATE: 急性発症の生存率約30-50%、24時間生存例の1年生存率約40%。突然死は全病期で発生しうる。
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📚 参考文献
Based on articles retrieved from PubMed
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